「許してください、許して」

「総悟、」

畳に髪をこすりつけて総悟は頭を深く下げる。

色素の薄いそれはさらりと擦れてひどくうろたえる。そんな自分を一喝して近づく。

足音に反応して体が跳ねた。

がばりと顔をあげると必死な眼で確認され、また畳に顔をこすりつける。

「許してください」

 

その手を、天井に向けられて、さぁどうぞ地獄へお連れ下さい、

そう言っている両手を掴み取って握った。

平たく小さく細く、それでも幾人もの命を斬ってきてしまったその両手は驚くほど小柄で、

体温のなさにぞっとする。

大げさに震えて、それでも何かを受け入れるようにぼろりと零した涙は透明で、

総悟はその淵越しから俺をじっと見つめて待っていた。

がらにもなく蒸気した頬はそれでも白く、歳相応に見えなくも無い瞼は細かくまばたきを繰り返す。

ただ無理やり抱え込んでがっしと背中を囲んでやれば、今度は盛大に泣き声を漏らした。

黒い制服から少しでも感覚が伝わるように、熱を浸透させるように何度も何度も撫でる。

ごしごし擦り落とすように往復させると、その動きに合わせてだんだん声が大きくなった。

もう夕食前だというのに、誰も騒がなかった。

一番うるさいはずの奴は今俺の腕の中でわんわん泣いていて、そのまわりを囲むように一人一人、取り残されたように

立ちすくんでいる。

涙をすする音とくぐもった荒い息は熱く、耳の側だけが温い空気で揺らいでいた。

 

「許してください、ふう、許してください」

「許そう。もう大丈夫だ」

 

 

 

 

 

出来るだけ何かを落とすようにつぶやいた。

黒い塊で押しつぶされそうな夜はたくさんあるから誰もがそれを想像して身震いした。

だから俺はその身震い分、総悟の涙の分、白い手の分、

そこらへんで立ったまま迷子になりかけている隊士の人数まるごと分、

すべて全部俺の中で消化させたいのだ。どうにかして何か残してやりたい。

黒い時代を、渦巻く矛盾を、果たしては、あの大きな存在のあの人の抱える物も。

どうせなら一つの固体にぎゅうぎゅう詰めにして、その固体だけがどうにかなればいいのに。

神というものの存在があるならばそれを望んだだろう。

そうすればまっさらで白くて、温かくて心の余裕を持ったここにいる全ての者たちが

異質な固体である俺の身を哀れんで優しく接してくれるだろう。

そのほうがいい。

どうしてこんな、片足を突っ込んで皆で白い月を見上げているのだろう。

外が白んできてもまともに見れず。

ただただ黒い夜を待っているのだろう。本当は、日の光のほうが、好きなくせに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで運命を共にしているようじゃないか。

こんな、冷めた、途方に暮れて諦めた俺も溶け込んでいるその黒い池に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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総悟がもしも不安定になったら、その時総悟を落ち着かせるのは土方さんだといい。

近藤さんじゃなくて。

05/4/14

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