お前、疲れているんだろうと言えば、
そいつは俺の目の中を覗き込んで頭を小さく揺り動かした。
半分開いたままの口元が乾き、何でもないだとか何を言ってるんだとか
そういう種類の言葉を返そうと頑張ったのだろうが、
みるみるうちに変な塊がうっと出てきて、とうとうはは、と乾いた笑いを貼り付けたままで
ぼろりと不器用に涙をこぼした。

小さな砂が風に舞ってちりちりと太陽の焼ける音がする。
俺とそいつは砂まみれで汗まみれで土まみれで泥臭くて
それでもここで生きているただ二つの生き残りだった。
それは俺達がここにいる奴らを殺したからで、それで俺達はこうしてまだ立って息をしていられる。
理由を突き止めるのは簡単だったけれど心の行き先を決めるのは困難だった。

俺達は今から帰って風呂に入れて二日ぶりの食事をして少し酒でも飲んで今日は薄くとも畳の上に敷かれた布団の上の枕の上に頭をのせて眠れるだろう。
あの人の笑顔にも再会できるだろう。

そういう些細な光も全て俺達はあの無数の塊から奪ったんだ。事実。
あの無数の塊がのっそりと起き上がり家を目指す事は、無いに等しい。

 

しばらく黙ってどうするものかと考えていたら、総悟はいきなり向かい合っていた俺をざっざっと追い越して後ろに行ってしまって、
俺がおいおいと振り返る前に背中にがつりとしがみついてきた。
ぎゅーと泥臭いコートの上からしがみつき、ごりごりと頭を擦り付けられた。
分厚い布越しにうーうーと唸る声がする。背中が余計じんわりと熱くなってくる。
結局上司らしく慰める事も抱きしめる事も髪をすいてやる事も出来ないので、
俺達二人は一個の黒い泥臭い汗臭い砂まみれの塊になってしばらく息をしていた。