山本が発する言葉はずるいと獄寺は思う。
しんしんとした日常に不釣合いな単語ばかりを、あの男は平気で言う。
獄寺、
好き、
めちゃくちゃ好き、
あー幸せ、ほんとに。
いつでも大概は獄寺の耳元で、うっとりとした何とも言えないトーンで、
そうつぶやく、しみじみと、本当にそう思っているんだよと。
獄寺にとっては恋愛なんていらないものだった、生活に不必要だった、
でもそれでもいいと目の前の山本武は言った。
布にとどまる温かさと匂いを吸い込んでよく言った、
それでもいい、獄寺がさ、俺に甘えればいいじゃん、
利用すればいいじゃん。な、俺ってそういうのでも全然構わないんだ。

 

 

本当は自分だって逃げ出したいのだ、現実から、
お前が抱いて、キスして抱きしめて頬摺り寄せるからもう戻れないじゃないか、
六日、六日、とまた数えだしてため息を吐いた。もう山本は自分に六日も手を出していない。
抱かれるのが毎日毎日だったわけじゃない、でもキスもぎゅーもしなくなって六日。
そう数え切れる自分が心底アホらしかった。女々しい。受けってそういうところ敏感になってしまうんだろうか。考えたくない事を自分から率先して考えていると、頭の奥がガンガンして泣きたくなった。
山本は、いつでも受け取って、という態度だからいけないんだ。何か返してくれるのを待つだけなんだろうか。
返す、じゃなくって。俺が与えるものはないんだろうか。
いつでも好きだって言いっぱなしで。与えるばかりで。
俺はいいんだ獄寺がいいならって、そんなもんよくねーだろ考えろよ馬鹿、と何度も思った。
でもそれを口に出さない自分が一番最悪最低だよ死ねクソ、と自暴自棄になるばかりでもある。
時間がないとかじゃない。昨日だって俺の家で二人きりで、やればいいだけの話だ。
山本だってやりたいんだろ。本当は。俺だってやりたかった。
キスだってもっとしたい。温かい体温を手じゃない場所で感じたかった。
頬をさわる大きな手が好きで、いつも髪をすいてくれる仕草がたまらなく好きで、やわらかく撫でられると気持ちよくて頭がぼーっとする。そんなキス。
手をつないでベッドに背を預けてテレビ見て、たまに様子を伺って山本が俺の肩を引き寄せて
ぎゅーとしてくれる温かさと匂いも好き。ふっと落ち着く感じがする。こう、腰がどっと張っていた気を落ち着かせて、くたっと全部を預けられるような。
そしてまたキスして、今度はさっきよりも少し長くてもっとやわらかいキスをして、ちゃんとするりと入ってくる手になら、抱かれてもいいと毎回感じた。
微妙に温度差のある手が肌の表面をすべっていって、あごには山本の短い髪があたって、首筋に息がかかる。何か大きなものに取り込まれるような感覚にはまだ慣れないけど、それが山本だから。許した。気持ちよかったし。何度でもいいと思った。
揺さぶられる体と格好はすごく情けなくて泣きたいけど、
山本がそれに興奮してるのが.俺に、山本が、って考えただけで許せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__________獄寺?」
「やまもと、」

 

 

暗い部屋でうずくまっていた体よりも冷たい、外の外気に慣れた大きな手と
好きで好きでたまらない匂いと存在に名前をつけたら自然に腕にしがみつけた。

 

「好き」
「・・・うん」
「抱けよ」
「うん、」

 

 

 

 

 

まだ空気は冷たいけど、手のひらは凍えてるけど、自分から入れた舌は温かくてじんとしびれて声が自然にこぼれた、山本だから、
山本だからお前だからお前だからと何度も思っていたら勝手に濡れたまつげに吸い付かれて馬鹿な声はまた出てくる、男だけど。相手も男だけど。山本だけど。

山本だから。
好きだから抱かれるし抱かれたいしキスしたい、好きだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうは思ったけど事の真相を後から聞いた時はとりあえず鼻血が出るくらいに加減して殴ってやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

05/3/16

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獄寺は本当にときたま本音で甘くなって、山本を翻弄させればいい。

山本が獄寺にふりまわされているようで獄寺もふりまわされてでも結局やっぱり山本が獄寺にふりまわされて、というのが理想です。

 

もっさん大好きな獄寺と獄寺大好きな山本が好きです。もうこいつらほんと一緒にくっつけばいいさビバ・山獄(結局)