無骨な手はいつもやさしいから、今はとてもぎりぎりと力を込められて信じられないくらいにムカついた。
真正面から睨んでくる眼の色が違うので、吸い込んだ息がひやりと冷たい。夕闇の影が邪魔だった。そんな敵を見るように睨むくせに眉が苦しそうによせられているから、隙間を与えてしまいそうで、んだよふざけんな、死ね、と急いで叫ぶ。
「俺が誰といつ電話してようがてめーに関係あるかよ」
「お前の事どうこう言ってるつもりはねぇよ」
「言ってんじゃねーか手離せよどうこう言わねぇんだろ、今すぐ離、」
「嫌だ離さない」
「お前いい加減にしろ今言ったばっかだろちゃんと日本語しゃべれ」

最後まで言い切らないうちに掴まれた手首をそのままぐいと押し返されてよろけた。隙など見せてはいないのに、山本はすかさずもう一方の手で携帯電話を掴み取ろうとする。
俺ももう片方の手で抵抗を見せたが馬鹿みたいにむきになった山本の手がガツンとそれを投げ飛ばした。
プラスチックの硬質音が、フローリングとかち合ってガチャン、チャッと細かい音がする。
黒いそれには愛する十代目の番号もあるのに。カッとなって渾身の力を込めて腕を振り払ったのにびくともせず、山本は獄寺の足を引っ掛けて床に押し倒した。自分も勝手に靴下とフローリングをすべらせてずるりと覆いかぶさる。あんなにカッコつけてこんなかよと思いながらもイラつきは収まらない。

 


キスもせず、ただ覆いかぶさって。胸の突起に噛み付かれて声が漏れて、下を擦られてもっと漏れた。こういう最中に性急なのはきっとお互い様なのだろうけど、自分は受け入れる側なのでそれを伝えた事はなかった。もしも伝えたら何か違ったのかどうか分からないけれど、一生、伝えてなんかやるものかと、そこに押し当てられた固いものに息を整えながら思う。無理やりなくせに何度も舐めて指で慣らして、それが心底気持ちがよくて、どうしようもなくなってしまう。
山本だって、その額に汗がはりついて、さっきまで俺を睨んでいた眼は細くなってうっとりして、ゆっくりと腰を揺らすその仕草はもうそれだけに没頭していた。ゆるやかに昇ってくる快感に敏感になりすぎてしまって、何度も太股の根元から震えが来た。それに気づいてそっと、あの大きな手がさするようにしてきて。

さっき、俺の大事な大事な大事な携帯電話を放り投げた手で、俺のそこを大事に大事に大事に擦る。意味が分からない。無理やりなのに噛み付いてでも逃げない俺も意味がわからない。一人だけ制服のジャケットさえ脱がず、息をつまらせたような声を出して、眉を寄せて中に出す山本の意味がわからない。
下をまるごと脱がされて受け入れたままその顔を、息がかかるほど至近距離で見て、それだけで胸が熱くなる自分が、もっと意味がわからない。

 

 

 

 

自分が日常生活で大事にしている数少ないものを無下に扱うなんて、山本は絶対一度もしたことなかった。
いつだって俺が好きでたまらない顔をして、俺が好きなものを嬉しそうに見ていたりしていたり考えていたりするさまを、まるごともっと嬉しそうに見ている山本の手が、そんな事をしたことはなかった。大きくてごつごつしていて、いつでも頬や頭の後ろを支えてキスしてきた。俺の事を好きで仕方が無いくせに、そんなそぶりを見せても無駄なのだ。
俺の事が好きなんだろう?心底。もう、顔を見ているだけで気持ちいいんだろう?
俺が大事にする全部を大事にしたいと思ってるんだろ?その、まだまだ足りない全てで、中学生とか、男同士とかそんなもの関係なくて、時には今日のように、それが途方もなく無理なものだと気がついてしまって、自分の小ささとか無力さとかにびっくりしてしまったりして、それでも。

 

まだまだ不安定ででもそれを押し留めようと必死で、それでもこうしておさえ切れなくなって、
義務教育の途中で、保護者がいなけりゃ何も行動できなくて。それでも俺が好きでたまらなくて、不安で、こんな事してしまったんだろ。
荒い息を吐きながら、顔を見せたくないのかぎゅーっとしがみついたまま離れない山本の髪をなでて、ったくしょーがねーなと分かった風に思っても、そんな山本を見て少しばかり、何か微妙に嬉しいような気持ちになってしまっている俺だってまだまだ子供で。
駆け引きなんて知らないし、この二人で出来るわけもない。いつだって不安定で。

 

 

 

 

耳元によせられた唇から最初に紡がれた言葉は、予想通りな素直なごめん、だった。
額にぎりぎりまで首を伸ばして死ねとつぶやく。
まだ息が整っていないのに、抜かないままのそれが反応して高い声がひとつこぼれた。いつのまに、知らない間にどうしてこんなに分かるんだろう。それは自分も同じ気持ちを、少なからず知っているからで。

山本が愛する大事なものは、俺だってそっと、どうかそのままでずっと、と思うのだ。



(きっとコイツ、絶対、今日からは俺よりも俺の携帯、大事に扱う・・・・・・)
その山本の大きな手を簡単に思い浮かべられたので、眼を閉じて流れ込んでくる熱にしがみついた。今その手は自分を好きだし、俺の大事にするものも好きだ。
無敵に思えて実は心底もろくて、それでも。



 

 

 

温かい熱に浮かされた、擦れた声で名前を呼ばれる。獄寺、愛してる、とは言われた事はないが、これが身近にある、愛というものなのだろう。

 

 

 

 





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

05/4/30

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山本が獄寺にすごいひどい事しちゃうぜ(っていうかさせちゃう)(私が)フハハ!と思ってたのになんですかこれは。
私は黒いもっさん好きなんですが書けないようですね。こんな山本いいのか。そして獄寺も乙女でいいのか。
もっとエロを書けるようになりたいと思ったので修行。そのくせ本番あんま書いてないじゃん。どうしようもないなお前・・・