「・・・帰れよ」

冷たい。へらへらだらだらしていた顔から一変して奴は俺の好きな顔になった。

「帰れ」

目が幾分大きく見開かれている。銀の色。俺はわざと扉に背中を預けて煙をふうと吐き

だした。

「・・・銀さん」

後ろから覗き込むように心配そうに声がした。銀時の後ろで買い物の袋を持っていた眼

鏡の男。もう一人のチャイナの娘は、ひょいと出てきて銀時の左の腕を掴む。

ぎっと睨まれた。そうそう、今のうち大いに睨んどけ。

今からお前のお父さんは俺にヤラれちゃうからな。

くっく、と薄く笑うと銀時は俺をじっと見て、そして瞬きをした。

「新八、神楽。今日は新八の家に行け」

「でも、」

「いいから。頼むわ、な」

何か言い返そうとした新八に告げると、新八は仕方なさそうに顔をたらし、神楽ちゃん行

くよ、と促す。

神楽は左手をぎゅううと握りこみ「いやいや痛い、痛いからやめて」と銀時に言わせると

ふんと手を離し階段を駆け下りて行ってしまった。

新八はその後姿を見て、銀時のほうをもう一度振り返ると、「明日また」と軽い言葉を残

して後を追っていった。カンカンカン、と響く音が消えるまで銀時は何気なしに横に視線

を流していた。

 

「帰れ」

すっかり気配が無くなるのを待って、銀時は言う。

帰れ。それしかいえねェのかよテメーは。

「帰れ。どっか行け。もう来るな。サヨウナラ」

一向に縮めない距離のままさらに告げる。それが何の意味も持たない事だというのを

俺は知っている。お前も、無意識に体に染み付いてるんだろう。

一生許さないと誓った。勝手に。一生お前を勝手に捨てたり投げたりすると誓った。

「中入れろよ、」

包帯に手を添えてそういえばいい。それは呪文。呪い。お前自身に勝手に刻み付けら

れたクソくらえな契約書。

それに印を押したのはお前だろ、銀時。

 

 

 

 

 

カタンと普通に開けると、銀時はそのまま真っ直ぐに歩いていった。

間取りはせまくも無く広くも無く。事務所として使うにはいいくらいの広さ。ただの障子で

間切りされた奥には部屋があるのだろう。夕暮れのニオイの染み付いたそこはいやに

現実すぎていた。まぁそれもいい。

銀時は普通に帰ってきましたよ、とでも言わんばかりに黙ったままでテーブルとソファの

場所まで歩いていくと、突っ立った。

真っ直ぐに見ているのは己のデスクだろうか。その上には高々と掲げられた訓がある。

『糖分』

ソファの上には雑誌が読みかけのところを下にして置かれていた。そのソファと挟まって

いるテーブルには三つの湯のみと変な空き箱とテレビのチャンネルが置いてある。

「・・・帰れ」

無意味だと当の昔に知ってるくせにもう一度銀時は言う。背中は変わらない。白夜叉と

恐れられていた男の背中と、万事屋としてのうのうと寝ぼけながら生きているこの男の

背中は何も変わらなかった。

短くなった銀色の髪と、それに隠れている太い首もと。裸足の足元はごつりとしててし

っかりした男の足。

「抱かせろよ銀時」

どうせ分かってるんだろう?

「また突っ込ませろよ」

ぎゅっと握りこぶしを握り、銀時は何も答えない。

ああそのごっつごつの手もいい。大きい、広いその手も。

 

 

欲情ってこんな気持ちを言うんだろうなぁ、銀時。

 

 

 

 

主導権を握った感覚は最高にいい気持ちだ。

俺とお前の間にあるその鎖はきっと、馬鹿の坂本でもぶった切る事なんてできない。

何でだか分かるか?銀時。

それは、

主導権という物を持つ俺に対してお前が負い目を感じてるからだよ。

最高だなこの関係。

俺ら二人にはお似合いだろう。

 

 

 

 


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はい、やってしまいましたー高銀・・・あれ?高銀ですよね?これ・・・