ふと、本当、本当にちょっとした時に、
いっつも俺から手だしてエッチしてキスしてるなぁと思って、よっしゃ今日から耐久レースって事で、俺が手出さなかったらどんな反応を獄寺がするかというのをやってやろうと思い、実行してみた。

 

 

 

 

ちょっとしたいたずらだ。
最近ほらなんていうか、幸せっぽいから、俺ら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、俺は表面上は何にも変わらない態度で獄寺ーって呼んで話してツナと三人でご飯食べて、部活が無い日は獄寺の家に帰り道そのまま寄って
部活休みの日は前の日から連絡とって行って部活あっても電話してとってくれたら家に上がらせてもらって
そして接触をとてもとても極力避けた。
教室とか廊下とか通学路ではツナと獄寺の肩に手を回しても、二人きりの帰り道とかでキスするのは止めた。
でも表面上は全然まったく変わらない態度をとって、自分の中ではすっごいものすごい欲求と戦っていた。実際は。
っていうかこれって何で思いついて実行したんだろう、とか思ったときは結構意地というか、勝手に頑張ろうと意気込んだ後だったので、俺は獄寺の隣でいつものように話かけて、他愛の無い話題を欠くことはしなかったけど
獄寺が煙草を吸うたびにあーキスしたいなーとか
ちょっと顔を伏せた時に髪が流れてあー抱きしめたいなーとか
眉間にしわを盛大に寄せてああ?って聞き返してくる眼を覗き込んでおー突っ込みたいとか
本当にお前、獄寺の事ばっかりだなと自分でも呆れるくらいにもんもんとした感じで過ごしてた。
っていうか、まだ木曜日かよ。と、時間の流れがとても遅く感じるのも不思議だ。この作戦を勝手に実行!としたのが月曜日だった。火曜日に獄寺の家に部活帰りに行った時は頑張れ、頑張れ俺と言えたけど、
昨日雨が降って部活がなくなった時家に行った時はもう、俺何やってんの?という感じだった。
むしろ褒めろ。お前、今元気な盛りの中学生だぞ。しかも、相手は殴られて避けられて暴れられて、やっとつながった獄寺だぞ。
二人でお笑いのテレビを見ながら、珍しくひーひー笑い転げる獄寺の腹ちらはもう拷問かとも思った。
ああ、やっぱり一週間も持たない。これが限界だ。仕方ないだろ。我ながらしょうもない作戦を思いついたもんだ。いや、作戦って・・・

 

 

 

ん?作戦?

 

 

そういえば、作戦的には、『手を出さなくなったら獄寺はどういう反応をするのだろう』というものだった。それがいつのまにやら、自分の欲求との耐久レースになっていた。獄寺の細かい仕草とか、もしかしたら見落としていたかもしれない。
獄寺隼人の感情を予想するのは今の所ずば抜けて俺が優秀だけど(だって恋人だからな!)
だからこそこの作戦で、獄寺も俺と同じようにキスとか手つないだりとかぎゅってしたりとかセックスとか長いキスとか、
そういうのを俺としたいと思ってくれてるだろうか、とふと思いついて、それで実行した作戦だったんだ。
別に獄寺のことを疑ってるわけではなくて、ただの遊び心。
いたずらだ。それがもんもんとしている間に目的を勘違いしていた。獄寺相手に我慢大会一人でやるなんて俺はMかよ。

 

 

と、考えている時に山本ー、と遠くから仲間の声がした。昨日の雨でまだ少し湿っているグランドで、その輪郭がぼやけつつある。
「もう上がるぞーーー」という声に片手を挙げて答え、ずるずるトンボを引っ張って自分の足跡を最後に消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い夕日がきんと張り詰めた冬の空で滲んでいてもうとっくに家々の明かりが灯る時間帯だったが、俺は獄寺の家に寄っていくことにした。明日は金曜日だから、獄寺は頼めば家に泊まるのを許してくれるだろう。それで耐久レースは終わりだ。だから最後に今日まで頑張ろうと思った。

 

 

 

 

俺の知らない獄寺の反応が存在するなら見てみたい。
最初からその事だけを念頭に実行すればよかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

携帯のディスプレイが眩しく光る。PM 6:50。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続き→16『好き』

 

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