獄寺に好きだと言って獄寺がそれを無視して、でも俺は諦められなかった。
獄寺はずるい。涼しい顔でさらりと、「駄目だ」としか言わなかったんだ。
男の俺が、とかクラスメイトの友だちが、とかじゃなくて、理由も何も聞かない目。凄く冷めてて動揺も何もない。
すうっと一瞬だけ細められて次の瞬間には駄目だとかで終わらせた。そんなに慣れてんのかよ。女からも。男からも?

俺以外の男も誰か、獄寺に欲情したりして。俺みたいに想い打ち明けてその中で獄寺が応じた奴もいるんだろうか。
最後まで許した奴もいるんだろうか、最後の最後まで。
獄寺の中に入ったり出たり入ったりした奴がいるんだろうか。

 

 

 

 

暗い部室は古い道具の匂いと土の匂いが交じり合って、余計に興奮した。
ガタン、と大きく揺れて転がったのは教室から誰かが勝手に持ち込んだ机。本当はその上に押し付けたけど、思いのほか抵抗の力が強すぎて冷たいセメントの上に二人で転がり落ちた。なんとか細い薄っぺらい体を支えたが、獄寺は腰から大きくぶつかってつ、と切れた声を出した。暖かくなりはじめて外で部活をすれば汗をかくくらいだったけど、日の去り際の時間と、セメントの床のせいで冷たい。でも俺は最初っから汗をじっとりとかいていた。だって、まさか。そんな、こんな時間まで待ってるとは思わなくて。部室までついて来るとも思わなかった。

「お前ふざけんな・・・っ  離せ、どけ」
「獄寺、」
獄寺の髪が床に落ちて擦れた。せっかく綺麗なのに、今は俺のせいで床にくっついている。土足で入る部室だからグラウンドの土がじゃりじゃりと鳴った。獄寺の髪のすきまに入り込む砂を想像してまた熱くなる。抵抗する言葉をさえぎるように名前を呼んだが、獄寺が両手を滅茶苦茶に突き出して暴れだすので、焦るようにもみくちゃになって首元に吸い付きながら必死でネクタイをほどいた。
荒い息が聞こえる。自分の行動に興奮して、獄寺の肌の近さにもっと興奮した。いつもさわれなくって告白してますます遠のいたそれ。もう気軽に肩すら叩けなくなった。
「山本て、め離せ・・・んっ!」


もう、全部、すべて剥ぎ取ってしまいたい。一秒も惜しい。頬を両手でがしりと掴みとって唇をふさいだ。だって、夢にまで見たんだ。熱くて溶けそうだ。頭の中も中心も舌も耳の裏側も全部、かっかと熱をもって暴走してる。肩を押し返してくる手に負けないように深く覆いかぶさった。

 

 

心臓の奥で繰り返した。好きだ好きだ好きだ、獄寺、獄寺獄寺獄寺獄寺。
でも舌を擦り合わせるだけじゃそんなの伝わらない。それでも気持ちいいからそれが悔しい。諦めるはずだった、ゆっくり近づくはずだったのに。

 

 

 

 



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